昨今のニュースで、供給不足が叫ばれているヘリウムガスについて現状をまとめました。
供給不足の原因は様々な要因が関係しているので、あくまで一例としてご参考として捉えていただけましたら幸いです。
※2023年の需給予測を追記しました(2022年12月17日追記)
目次
- ヘリウムガス市場規模・用途
- ヘリウムガス不足の原因
- 過去のヘリウムガス供給危機事例
- ヘリウムガス不足による影響
- 2023年の需給予測(2022年12月17日追記)
1.ヘリウムガス市場規模・用途
- ヘリウムガスは天然ガスの採掘の際に副産物として生産されている
- どの天然ガス田からも取れるわけではなく、ヘリウム含有量の多い一部の天然ガス田からしか産出されない貴重な天然資源である
- ヘリウムガスの市場規模は世界でおおよそ140百万m3:2020年時点
- 主な生産国はアメリカ(約55%)、カタール(約38%)、アルジェリア(約10%):2020年時点
- 2010年時点ではアメリカが世界シェアの約80%を占めていたが、シェールガスへの移行もあり近年は生産量は減少傾向
- ヘリウムガスの市場規模は日本でおおよそ9百万m3(2020年)
- 国内シェアトップは岩谷産業
- 主な用途はMRI・NMRの冷却用、光ファイバー、リークテスト(漏れ検査)、溶接、分析、風船、半導体製造など
2.ヘリウムガス不足の原因
ヘリウムガス不足の原因は様々な要因が関係していると考えられていますが、主な原因は下記の通りです。
①主要プラントの生産トラブル、原料の天然ガスの需要変動
・プラントの老朽化などにより、定期修理が長期化し、生産量が低下
・原料である天然ガスの需要が変動し、ヘリウムガスの生産量も変動
②アメリカでのシェールガスへのシフト
・ヘリウムガスの含有量の少ないシェールガスへの移行
③新プラントの立上スケジュール遅延
・ロシアのガスプロムでの爆発事故など、新プラントの立上スケジュールが遅れている
④政治的、経済的要因
・ロシア―ウクライナの戦争・各国の経済制裁、アメリカー中国の貿易摩擦などの影響
・ロシアから輸入が出来ない、数量減など
⑤物流の影響
・コロナウイルスからの需要回復に伴う、コンテナ不足により海上輸送が混雑
・コロナウイルスによる港湾現場の混乱
・アメリカの港湾労働者の現場復帰遅れ(休業補償の影響?)
⑥他の国に「買い負け」している
・世界的にヘリウムの品薄感が強まっている状況の中、世界的な調達競争が激化
・日本市場は世界の約5%程度のシェアを占めていたが、中国や東南アジアなどに比べ購入価格帯が安い
・全体としての使用量も年々減少傾向にあり、ヘリウム産出国から見ると「魅力がない出荷先」として買い負けしている可能性
3.過去のヘリウムガス供給危機事例
ヘリウムガスは生産しているプラント、国が限られていおるので供給不足は今回が初めてではなく過去にも色々な要因で供給不足が発生しておりました。
一例を下記にご紹介致します。
2002年:アメリカ ストライキにより29港閉鎖
2007年:アメリカ プラントトラブル(パイプライン故障など)
2012年:アメリカ プラントトラブル(定期修理の立上遅延)
2014年:アメリカ 西海岸ストライキ
2017年:カタール国交断絶
2018年:アメリカ プラントからの出荷減
2020年:海上物流混雑
並べてみると過去にも数年に1度以上のペースで何らかの要因で供給不足が起きていることがわかります。
世界的にプラントの数が少なく、物流や外交問題など色々な影響で供給が滞る可能性が高いガスだといえます。
4.ヘリウムガス不足による影響
ヘリウムガス不足により下記のような影響が出ております。
- ディズニーランドや結婚式場で風船の販売休止
- 水道水検査の水質検査で使う分析機が使えない
- MRI装置にヘリウムガスが充填できず、装置が使えない
- 半導体や光ファイバーなどの工場稼働低下
上記はあくまで一部で実際は様々な分野において影響が出ていると思われます。
5.2023年需給予測
結論としては、2023年も厳しい状況は継続する見込みです。(2022年以上に厳しくなる可能性も)
要因は下記の通りです。
- 物流はやや改善(米国港湾労働協約交渉のリスクは残る)
- アメリカ、カタールなど主要プラントの長期の定期修理が予定されている
- ロシアの新プラントは生産が開始される(開始された?)との情報もあるが不透明
- ロシアに対する経済制裁は継続
また新しい情報が入りましたら更新させていただきます。
以上、様々なところで使用されているヘリウムガスですが、供給不足により色々な影響が出ることが想定されております。
一刻も早く事態が改善に向かうことを期待しております。
ヘリウムガスの物性や製造方法については過去の記事でまとめております。⇩