窒素の原料は空気(大気)です。
空気中の成分である窒素、酸素、アルゴンをまとめてエアセパーレートガスと呼びます。
空気中の主な成分は水蒸気を除けば、窒素が約78%、酸素が約21%、アルゴンが約1%です。
※他にも二酸化炭素(CO2)などが微量に含まれます。
窒素を製造する方法には主に①深冷空気分離②PSA(吸着剤による分離)③膜分離の3つがありますが、いずれの方法も空気中に含まれる窒素を他の成分と分離することで窒素を製造しています。
以下にそれぞれの製造方法の特徴をまとめました。
また、それぞれの製造方法による純度やコスト、生産量についてもまとめました。
目次
- 深冷空気分離
- PSA(吸着剤による分離)
- 膜分離
- 純度について
- コストについて
- 生産量について
1.深冷空気分離
深冷空気分離は、原料である空気を圧縮膨張、熱交換によって冷却し、窒素(沸点-196℃)・酸素(沸点ー183℃)・アルゴン(沸点ー185℃)の沸点の差により分離、製造する方法です。
エアセパレートガスの製造方法として最も一般的で、100年以上の歴史のある製造方法です。
窒素・酸素・アルゴンを同時に製造でき、高純度のエアセパーレートガスを大量に製造するのに最も適しています。
製造プロセスは下記の通りです。
1.フィルターでごみを除去した原料空気を空気圧縮機で加圧(0.5MPa程度)する
2.圧縮で昇温した原料空気を水、フロン冷凍機で冷却する
3.水分、炭酸ガスなどの不純物を除去する
4.熱交換器で原料空気をー200℃付近の極低温に冷却する
5.沸点の差で窒素・酸素・アルゴンを分離する
6.純度99.99%以上の窒素が出来る
引用:㈱ガスレビュー刊 ガスジェネレーション 2011
2.PSA(吸着剤による分離)
PSAとはPressure Swing Adsorptionの略であり、加圧、スイング(脱着)、吸着を行う製造方法です。
圧縮した原料空気を吸着剤の入った吸着槽に送り込み、その中で吸着剤を用いて選択的にガスを吸着させ、純度の高いガスを製造します。
その後、不純物が吸着した吸着剤を再利用するために、不純物を脱着する工程、いわゆる再生を行います。
製造するガスの種類によって、吸着剤や吸着方法、脱着方法が異なります。
PSAで製造できるガスは窒素、酸素、水素、アルゴン、炭酸ガス、メタンなどでいずれも深冷分離のように何種類も同時に製造するのではなく基本的に1種類を製造します。
窒素を製造する場合、製造プロセスは下記の通りです。
1.送り込む原料空気を空気圧縮機で約0.7~0.9MPaに圧縮する
2.冷凍式エアドライヤを使い、大気露点-17~20℃程度まで冷却、水分を除去する
3.フィルターを通し、油分や微量のゴミなどを除去する
4.活性炭槽でエアドライヤ及びフィルタで除去しきれなかった不純物、有毒ガスなどを除去する
5.原料空気を活性炭などの吸着剤が詰まった吸着塔に送り込む、酸素が吸着され吸着されなかった窒素(アルゴンも含む)を製品槽に送り込む(吸着工程)
6.吸着剤に吸着した酸素ガスなどを大気との圧力差で脱着する(脱着工程)
7.純度99~99.99%の窒素が出来る
※吸着塔は2塔式が多く、5.吸着工程と6.脱着工程を繰り返しながら空気から酸素を吸着させ、窒素ガスを分離する
引用:㈱ガスレビュー刊 ガスジェネレーション 2011
酸素PSAの場合、真空ポンプを使う、吸着剤には活性炭ではなく合成ゼオライトを使う、など製造するガス種により方式が異なる。
3.膜分離
膜分離とはポリイミド、ポリスルホルンといった合成高分子のガス分子を透過する性質を用いて窒素などを選択的に分離する製造方法です。
各々のガス分子は分離膜を透過する速度が異なるため、この速度差を利用して得たいガスを空気などから分離します。
膜は平らな膜ではなく、ストローのように中を空洞にした繊維、いわゆる中空糸膜が用いられます。
中空糸膜は宇部興産、パーミア(エアプロダクツ)、メダール(エアリキード)の3社で製造しています。
窒素ガスを製造する場合の製造プロセスは下記の通りです。
1.原料空気を空気圧縮機で圧縮する
2.不純物を除去し清浄な乾燥空気とする
3.膜モジュールを通過させて窒素・アルゴンと酸素を分離する
4.純度95~99%の窒素が出来る
引用:㈱ガスレビュー刊 ガスジェネレーション 2011
4.純度について
純度については一般的には下記の通りです。
深冷空気分離(99.99%以上)>PSA(99~99.99%程度)>膜(95~99%程度)
5.コストについて
コストについては一般的には下記の通りです。
深冷空気分離(単価当たりは最安)<PSA<膜
コストについては一般的には大量に製造する深冷空気分離が最も安いですが、PSA・膜分離は使用する工場で製造できるので運送コストがかからないというメリットがあります。
厳密には使用量や使い方によってどの製造方法が安く窒素を製造できるのかが変わってきます。
6.生産量について
生産量については一般的には下記の通りです。
深冷空気分離(1,000Nm3/h以上)>PSA・膜(1~1,000Nm3/h程度)
深冷空気分離は大量に製造するのに向いており、中小規模の製造量であればPSAか膜が適しています。
以上、窒素・酸素・アルゴン(エアセパーレートガス)の製造方法について簡単にまとめました。
いずれの製造方法においても共通しているのは、「空気を原料としている」「空気の成分である窒素を分離する」という点で空気中の窒素をなんらかの方法で分離して製造しています。
深冷空気分離で製造した窒素は一般的にはローリー車で使用する工場まで運搬されて使われています。
原料の空気はタダですが、製造するのに電気や設備代、運ぶのに輸送費がかかっているのですね。